まほろばの余韻

幽景写譜 第1話

幽景写譜 ── 静けさが語る、音なき風景

「幽景写譜(ゆうけいしゃふ)」とは、音のない風景の中にある“余韻”を、
見る人の感性と記憶が静かに呼び起こしてくれる、映像と記憶の絵巻です。

幽景写譜 第1話|沈黙の鳥居

鳥居を目にした瞬間、心がすっと引き締まるような感覚がある。
誰に教わったわけでもないのに、そこから先は“特別な場所”だと、自然に感じる。

あの感覚の正体は、きっと、
遠い昔からこの国に生きてきた人々が、山や森、川や岩、
「そこに在るもの」に敬意と感謝を捧げてきた、祈りの記憶。

鳥居の先にあるものは、ただの空間ではなく、
日本人としての心の奥に受け継がれてきた、
「見えないけれど、確かに感じるもの」──
それは、祈りであり、感謝であり、
自分が生きているこの土地への、静かな想いなのかもしれない。

「ねえ、きみも…鳥居の前で、思わず立ち止まったことがあるんじゃない?」
「今日は、そんな“記憶の風景”を、一緒に見てみよう」
沈黙の鳥居

霧のなかに、ぽつんと

霧の立ちこめる、朝の森。
まだ空気がひんやりとしていて、鳥の声も聞こえない。
少し湿った苔の石段を登っていくと、木々の奥に、ぽつんと鳥居が立っていた。

どこかで見たことがあるような風景。
あるいは、夢の中で何度も通った場所かもしれない。
懐かしいようで、少しだけ胸がざわつく。

語らぬものが、伝えること

鳥居の前に立つと、自然と足が止まる。
声を出すこともなく、ただ、そっと頭を下げる。

そのしぐさには、理由も説明もいらない。
小さな祈り、言えなかった願い、昔の記憶。
その全部を、ここは黙って受け止めてくれる。

この場所は、何も語らない。
でも、風の揺れや、木漏れ日のやさしさを通して、
わたしたちに何かを伝えてくる気がする。

その向こうにあるもの

鳥居の向こうに何があるのかは、今もわからない。
けれどその手前で、ただ立ち止まり、
胸の奥にある“何か”に、そっと耳をすませる──
そんな時間が、ここにはある。

「きっと誰の心にも、こんな風景があるんだと思うよ」

—— 静けさのなかで、
心が聴いた風景。

次回の写譜 ▶︎ 第二話「静寂の通り道」
まっすぐに並ぶ木々を前にすると、心地よい違和感を覚えることがある。
自然ではない“つくられた美しさ”に、心が震える──
次の景色も、どうか、静かに感じてみてください。

-まほろばの余韻

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