ナビゲーター:Gen & Ritchi(神社ログ編集部)
ことのは帳 第5話|うつしよ
── 仮のかたちに、ほんとうの願いを宿して ──
「ココロ、“うつしよ”って、なんだか不思議な言葉だね」
小さな流れの音を聞きながら、ハッチがつぶやいた。
「うん。“現実のようで、そうじゃない”って感じ」
「ぼくたちが今いるこの世界も、“仮の世”ってことなのかな…?」
■ うつしよという言葉
「うつしよ(現し世)」とは、私たちが生きるこの世界のこと。
だけど、古くは“仮の世”“あちらとの間にある世界”とも言われてきました。
「あの世」に対する「この世」という意味もあれば、
「神の世界」や「魂の世界」があるという前提のうえで、
ここはほんのひとときの旅の場所──と考える文化もあります。
■ それでも、“いま”に宿る願い
ハッチはしばらく黙って、木々の間を渡る風を眺めていました。
草の葉が揺れる音。雲の影が通りすぎる静けさ。
「もし、ここが“うつしよ”だとしても──」
この瞬間に感じていること、願っていることは、きっと本当のことだ。
そう思うと、“仮”であることは、むしろ“たいせつにしたい”理由になるのかもしれないと、ハッチは思いました。

■ ハッチとココロの会話
「ぼくたちが見てるのは、“映し”なのかな」
「そうかも。でもね、“ほんとう”は、映った光の中にもあるよ」
「ふふ…むずかしいな。でも、ちょっと、好きかも」
「“仮の中”で、本気で願える。それが、いちばん“本物”かもね」
■ しめくくりのことのは
うつしよ──それは、かりそめであるがゆえに、かけがえのない世界。
本当のことは、目に見えないけれど、
この世界にちゃんと“映し”出されている。
ハッチは、揺れる光のなかで、小さく一礼しました。